3歳までにやっておくこと《4》 思いやりってなんだろう
毎朝私は子どもたちに会えるのを楽しみに出勤してきます。
自分の荷物の入っているおおきな袋を引きずって颯爽と入ってくる子もいれば、
まだ眠そうに抱かれてくる子、パパやママと別れるのが辛くて泣いている子、朝の表情は様々ですね。
でもどんな姿でもかわいいです。
先生に優しく気持ちを受け止められているうちにどの子も満足して先生の抱っこから離れ、設定された遊びに引き込まれていきます。
さてお父さん、お母さんたちに「どんな子に育てたいですか?」と尋ねたら
まずは「思いやりのある子」と答える方が多いそうです。
昨今の陰湿ないじめや体罰問題に対して規制や管理を強める対策がとられていますが、
思いやりの気持ちがしっかり育っていればいじめや暴力は自ずと減っていくでしょうね。
「思いやり」は豊かに生きていくのにとても大切なことに違いありません。
では、思いやりを育むにはどうしたらよいのでしょうか。
普段何かと大人の都合で動かされがちな子どもたちですが、まずは子どもの気持ちに添うように努めます。
泣く、ぐずる、言うこときかないなどは、すべて心の中からのサインです。
多分、甘えたい、自分だけを見ていて欲しい、自分の思いと違った・・そんなところでしょう。
何かを不安に感じて気持ちが満たされていない場合が多いのですね。
できるときは十分甘えを受け止める。愛情が伝わり気持ちが満足すれば、モノに頼らなくても子どもは満たされます。
逆に今はできない、と言う時はやさしくそう伝えましょう。
でも必ずあとで「さっきは待っていてくれてありがとう、えらかったね」と言って思いを受け止めてあげてください。
子どもの欲求の言いなりになるのではなく・・・その裏にある不安な気持ちを満たしてあげればよいわけです。
子どもに振り回されず、大人がリーダーシップをとってくださいね・・・とは言っても、
お父さんお母さんが疲れていたらつい怒ってしまって、そう簡単にはいきませんよね。
そこで周りの大人がぞれぞれの立場で、それぞれ補い合えば良いのです。
人間はそれぞれ不完全。協力し合うようにできているのですから。
自分は周りから愛されている、大切にされていると子どもが実感できたとき、
自己肯定感がしっかりし、次に他者に対して思いやりの気持ちが芽生えてきます。
個人差はあれ、一般に他者認識は3歳前後からはっきりしてきます。
けれども在りのままの自分を大切にされ、喜びを分かち合う経験をたくさんしていなければ、
何時までたっても人の悲しみを理解したり思いやりを持つことができないと言います。
いじめ問題もこんなところがネックになっている気がしてなりません。
3歳前後がひとつの大切な心の発達の節目。社会全体で取り組んでいく課題です。
ことさら保育園での保育の在り方が問われてきます。
お友だちに対しての思いやりを示してくれたAちゃん(2歳4カ月)のこんなエピソードがあります。
横浜でも雪が積もった成人式の次の日。
つばめぐみのBちゃんのお母さんがBちゃんを抱っこして園にくる途中、
片方の靴と靴下がどこかですっぽり脱げてしまいました。
その日は見つからなかったので、お迎えにきたお母さんは足が冷たかろうと、
靴のない方に靴下をはかせて帰りました。
次の日、毎日朝早くお父さんと登園してくるAちゃんは、
保育園の近くの写真館の前でピンクの靴が落ちているのを見つけて
「これBちゃんの。持ってく、持ってく。」と言ったそうです。
お父さんは「じゃ、先生に聞いてみよっか」と言って園に持ってきてくださり、
靴と靴下は無事Bちゃんのもとに戻りました。
その話を聞いて驚いたのは先生たちでした。
なぜなら、Bちゃんは普段は別の靴を履いていて、
そのピンクの靴を履いているのを見る機会があまりなかったからです。
それなのに一目で落ちていたのがBちゃんの靴だと分かったということは、
普段からお友だちのことを良く見ていたのに違いありません。
そして、Bちゃんが困っているだろう、
保育園に持っていけばBちゃんの手に戻るとAちゃんがBちゃんの気持ちを察して「持っていく」と言ってくれたこと。
こんなことが言えるようになっているなんて感激です。
お父さんも「そうか」と聞き、もし違っていたらAちゃんを保育園に送り届けた帰りに同じ場所に戻しておけばいいや、と思われたのでしょう。
なんとも子どもの言うことも尊重して受け止め、分別のある対応をなさったことでしょうか。
「そうそう、これBちゃんの。探していた靴!!」と思わず言った私に、
Aちゃんは嬉しそうに応えながらお父さんと目を見合わせました。
お友だちへの思いやりの気持ちが、愛情深い関わりの中でしっかり育っていたのですね。
このエピソードを通じて子どもの気もちに添うことで気持ちが満たされ、
2歳にしてこれだけの心の成長発達を遂げていることを目の当りにいたしました。
私たちは、これからも家庭と連携して「子どもの気持ちに添い、
ありのままで大好きだよと伝える保育、楽しいことを膨らませ、喜びを共感し合う保育」をより深め、
広めていく必要があることを再認識いたしました。
大人も子どもも思いやりで満たされるために。
「3歳までにやっておくこと」シリーズはひとまずこれで終わります。
お子さんのことでお困りのことやご意見ご質問などございましたらどうぞ園長にお知らせください。
一緒に考えてまいりましょう。私たちも完璧ではありません。
日々子どもたちと向き合って子どもたちと共に学びあっていきたいと思っております。